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新酒の季節

しんと静まり返った蔵の中に、明かりが灯る。
まだ空には星も残る頃、酒蔵では朝一番の仕事が始まる。
酒造りの季節は、10月の始めから春先までの約半年間。
底冷えのする厳冬季を中心に、昔ながらの手仕事で今年の新酒が醸されていく。
蔵は今、にごり酒の仕込みの真最中。
ここで働くのは、但馬杜氏を頭とする5人の蔵人たちである。

元祖「にごり酒」で全国に名高い、清酒「月の桂」増田德兵衞商店は、創業 300年余(創業1675年)の、最も古い歴史を持つ蔵元。
酒蔵の在る鳥羽街道は、鴨川、桂川に沿ってむかしの街道筋の名残を見せる古い家並みが続く 道を隔てた真向かいにある増田家は、かつては、京から大阪や西国の地へ赴くお公卿さん達の中宿もつとめた由緒ある旧家である。
京格子に虫籠窓の趣のある主家の表の間には、江戸時代に石清水八幡宮への勅使が参向される途中、家で休まれた折りに詠まれたという和歌が残されている。

「かげ清き月の嘉都良の川水を 夜々汲みて世々に栄えむ」 月の桂という銘は、その姉小路有長というお公卿さんの命名による。 月の桂は「月中に桂あり、高さ五百丈、常に人ありてこれを切る・・・」とある中国の伝説からつけられた名という。
その昔、東国と西国を結んだ交通の要路として栄えた伏見の町で、酒造が盛んになったのは豊臣秀吉の時代からで、古都の南に位置するこの地は、"伏水"とも記される程、豊かな質の高い伏流水に恵まれていた。桃山丘陵をくぐった清冽な水が水脈となって地下深くに息づき、山麓近くで湧き水となって現れ、山紫水明の地でまろやかな中硬水となるそうだ。名水ある処に銘酒ありといわれる所以である。

オートメーション化の進む時代にあって、清酒「月の桂」は個性と季節感をひときわ大切にした"ほんもの"の酒造りを、杜氏たちの丹念な手仕事と技の中に伝え続ける数少ない蔵元である。 京都の米を復活し、地元伏見で無農薬で育てている唯一の蔵元として、米と人そして水を最も大切にしています。何かとあわただしい世の中に、自然の営みと人間の知恵がじっくりと醸し出す日本の酒は、歳月がくれた贈り物。美酒一献にこころと体をくつろがせ、贅沢なひと時を愉しむ。
今年もまた、新酒のおいしい季節がやってきた。

世界でたったひとつ、初めての技で出来上がったスパークリング「にごり酒」。
また江戸時代1600年の「本朝食鑑」を手本に再現し、約50年に亘り貯蔵熟成した古酒「琥珀光」のパイオニアでもある(1966年から)。
お米は、京都・伏見の農家:山田豪男氏と出会ったのが1991年、その年から、京都でのみ復活した酒造好適米「祝」を無農薬で育ててきた。とても背が高く倒れやすいのだが、それを自然農法で克服。また2001年には、京都幻の食米「旭4号」も復活させ、地元京都、伏見から“地産地消”を広め今でも、大きな反響があり、支援してくれる方たちとともに田植え稲刈りと自然に恵まれて育てている。

多くの文人墨客に支援され、映画では、黒澤明監督が好きだったにごり酒や琥珀光、また小津安二郎監督の「小早川家の秋」は月の桂を舞台に展開する映画である(ストーリーは面白可笑しいフィクションであるが)。
永井荷風や谷崎潤一郎も、驕ることなく楽しく飲んでおりました。
鳥羽・伏見の戦で罹災した時(1868年)の大砲の弾も残っており、また2010年に修理復元した母屋は、宮大工の技法が存分に使われ、落ち着いたとても洒落た空間を醸しだしている。
月の桂製品がすべての種類が手に入るのは、ここ醸造場のみで、海外からの来訪者が多く、酒と技と建物に興味がある方や、いろいろな月の桂を手に入れようと連日訪れている。
酒のデザインは「北川一成」によるものも多く、世界アーティストからも、面白いと思われている。

挿絵:重要無形文化財 稲垣稔次郎画伯作 (株式会社増田德兵衞商店)

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